METで行われている2つの展覧会を見に行った。Pragueの方は作品の量もあり(METの中では)比較的規模の大きな展示だ。この日は最終日と言う事もあり会場は多くの人で賑わっていた。プラハに保存されている宗教絵画と、これに関係したゴシック様式の教会装飾品や武具などの展示。絵画作品はどれもが非常に精緻に描かれていたが、どことなく素朴で温かみがあるように思えた。松やブナの木をベースとして、麻を貼ったり下地を施したり、用途に応じて様々なタイプの基底材を使っているのが分かる、質感の差が面白い。こういった基底材は他にも応用されており、硬く軽い木の性質を巧みに利用した武具なども展示されている。また教会を彩る金銀細工の豪華な装飾品、ステンドグラス、石彫などを通してプラハがボヘミアと呼ばれていた頃の―またボヘミアが最も繁栄し成熟した1350〜1430頃の―時代を展望する展示となっていた。宗教画と教会と武具、特に最後の1つは本来なら他の2つとは不似合いなものだが、複雑な政治背景を背負ったチェコの歴史を思うと、避けて通れないものと思わずにはいられない。現プラハは街全体が美術館だと言われている、行ってみたいと思わされる街である。
Fra Angelicoの方は彼の初期作品・素描(下図)を含む30〜40点ほどの展示。アンジェリコは私の大好きな作家の1人だ、美しい色彩と幾何的な構図のバランスが素晴らしいと思う。この作家の特徴は濁りの無い美しい赤・青・金の色彩にあると思うが、この鮮やかな色たちを支えているのは必ず画面のどこかに挟み込まれている深い暗色(暗褐色〜暗緑色)の効果に拠るものだ。この暗色が透明感と湿度を帯びているが故に、アンジェリコの画面は優雅で(聖人を描きながらも)少し艶かしい。そこへ幾何的な構図センスが清潔感を与え、独特なバランスを生んでいるように見える。
また印象深かったのは彼の初期の作品“Scene from the Ninfale Fiesolano”これは中世イタリアの作家Giovanni Boccaccioにまつわるエピソードを題材とした作品。画中80%が暗緑色で覆われ、中央に黄色の寝台が置かれ、前後には夜の風を思わせる精霊や、月の光を受けた人々の姿が描き込まれている。構図はまさに涅槃図そのものだ。
この展覧会は今月末まで行われているので、もう1度訪れてみたいと思っている。
※初回記載内容に間違いがありましたので訂正します(1/12)
コメント
コメント一覧 (6)
いやーいいなあ。レアな展示ですねえ。
フラ・アンジェリコといえば、フィレンツェで見た
”受胎告知”の持つ静謐な画面は
計らずとも敬虔な気持にさせてくれるものでした。
フレスコを見るときは、その空間と存在意義が
絵画と密接に結び合っていて
最早”インスタレーション”
と呼んでも差し支えないものが多いんですよね。
しかし伴戸サンは
洋画にも造詣が深いんですねー。
恐れ入りました。
チェコは私も行ってみたいと思っている国のひとつです。
Scene from the Ninfale Fiesolano という作品、ぜひ見てみたくなりました。とても想像を掻き立てられました。
今年もよろしくお願いいたします。
今年もよろしくお願いします!
なんだか展示を見て、素敵な新年の幕開けですね!!
アンジェリコについての知識は全くと言ってない僕ですが、やはり、日本画のせいかフレスコ画に親近感が沸きます!
フィレンツェの受胎告知、相当いいらしいですね!ぜひ見に行ってみたい場所です。
私もともとは油絵を描いていたので、大学卒業頃までは油の作家の方がよく知ってたかもしれません。狩野探幽よりもヴァン・ゴッホ、墨よりも木炭、私達が受けたのは極めて西洋風な美術教育。雪舟を知らない学生がたくさんいますが、これが今の日本の姿なのだなと思います。良いものは、東西問わず摂取したいですね。
>もっちゃん
プラハいいですよね。写真でしか見たことないけど、すごく絵になる街。交響曲モルダウを思い出します。
今年もよろしくお願いします。
>大浦さん
フレスコ、テンペラは日本画にすごく近いですよね。しかし先日ある場所で東山魁夷の日本画を見て、その柔らかさにびっくりしました。紙ってすごいなと再確認。
今年もどうぞよろしく。
プラハは「街全体が美術館」なんて言われてるんですね。
東欧って、いつも寒くて、ちょっと悲しい、という
イメージしか持っていませんでした。
もちろんそんなことないんだろうけど。
ボヘミアが昔のプラハ周辺のことだということも知らず、ボヘミアンは
ジプシーみたいなあっちこっちにいる流浪の民だとばかり思ってました。
無学だ。今年は勉強します。(←抱負)少し。
“ボヘミアンは流浪の民”その通りです。19〜20世紀は2つの大きな戦争、差別や民族紛争、思想の粛清、が吹き荒れ各国で国を追われた人々が続出。こうした人々がパリやニューヨークに住み着き、もはや帰る場所を失って“ボヘミアン”と呼ばれるようになったんですって。
私も詳しくはないんですが、東欧の歴史を振り返るとその悲惨さに驚かされます。チェコは特に数世紀に渡り他国家の支配を受けてきた国、悲しいイメージが付きまとうのも仕方ない。但しそれに屈せず粘り強く独立を勝ち取った事実は、私たちに何かを教えてくれます。