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私の住んでいる埼玉県岩槻区は、江戸時代以降 日本有数の人形生産地として知られている。私が小学生のある日の事、担任の先生が「お父さんお母さんが人形関係の仕事をしている人は手を挙げて」と問いかけると、クラスメイトの60〜70%の手が挙がったことを思い出す。人形作りは分業であった為、頭部だけを作る頭(かしら)職人・人形用の持ち物などを作る小物職人など、以前は小売店以外にも人形産業に関する様々な職業が存在していた。あれから20年余りが経ち、今では状況は変わってしまったことだろう。しかし今も、やはり岩槻は「人形の街」であることに変わりはない。

この街では毎年11月3日(文化の日)に「人形供養祭」が行われている。壊れてしまったお人形、古くなったお人形などを供養して処分するのだ。数年前までは読経の声と共に、その場でお人形を火にくべてお見送りしていたそうだが、最近は廃棄物処理法など法律の影響で公園等でのお焚き上げが出来なくなってしまった為、供養祭では木札をお人形の代わりとして供養する。岩槻区内のお寺のご住職さまなど、10名余りのお寺さんが読経する中、お人形代わりの木札を焚いて手を合わせお別れするのだ。供養祭後、お人形本体は岩槻人形組合スタッフが然るべき方法で処理する(あまり使いたくない言葉だが具体的には、市指定のごみ分別法に沿って素材別に分別処理をして廃棄処分するらしい。ちなみにスタッフは殆どボランティアだが、処理費用等がかかるため供養には手数料3000円/1体ほど必要、遠方からの郵送供養受付も有)。しかしスタッフの方々は殆どが心ある現役の「お人形屋さん」である。大切なお人形・ご縁のあるお人形を最後に委ねるには、ここより安心なところはないだろう。

昔からお人形には心が宿ると言われている。ぬいぐるみ等は事情が違うかもしれないが、お雛様・五月人形など日本人形を贈る場合には大抵明確な「理由」が存在しているからかもしれない。お人形を持っている方は、ご自身が生まれた時・初節句の時・初めてお子さんが生まれた時など、人生の喜ばしいターニングポイントでお人形を贈られていると思う。贈る側の方はその方の人生を思い、幸せになってほしいという願いを込めて贈っているはずである・・・お人形は年月と共に古びてはいくが、贈る側の方の願いを何年何十年も背負ってその人を見守ってくれているのかもしれない、それはいわば幸せな記憶のタイムカプセルのようなものとも呼べるかもしれない。古いお人形を「怖い」と言わずに、最後の日はできれば手を合わせてお礼を述べたいものだ。

聞くところによるとこの人形供養祭は1500人あまりの人出と、なかなか盛況である。天気が良ければ紅葉の岩槻城址公園を散策できる特典もある、お人形の供養のみならずお近くの方には是非お勧めしたい催しだ。

 

岩槻人形供養祭 問合せ:岩槻人形協同組合 048-757-8881