秋野不矩展 京都近美 秋野不矩先生の作品約90点が集められた大規模な回顧展が京都国立近代美術館にて行われている。

秋野不矩(Akino Fuku/19082001)は近代日本画を牽引した女流画家。23才から93才で亡くなられる直前まで、京都で精力的に作品を作り続けた。タゴール大学へ招かれてインドに滞在したことを切欠に、後半年はインドの人々の暮らし・風景を多数取材し作品として残している。

 

私は秋野先生の作品が昔から大好きなのだが、実物を数点しか見たことがなく、これだけの数の作品を見たのは今回が始めてだ。以前から見てみたいと思っていた作品、図録でも見たことがなかった作品、しかも晩年の大作が多く展示されており、見ごたえのある展覧会だった。

やはり魅力的なのはインドの風景を描いた作品群。土の匂いがする家々と鮮やかな青い空、古代の神を刻んだ遺跡、しゃがんで祈りの文字を描く少女など。中でも代表作の1つである「ガンガー」(1999)は大河を泳ぎ渡る牛の群れを描いたもので、素晴らしい作品だった。これは作家が繰り返し取り組んだ図像だ、思い入れの深いテーマであったのだろう。描きたいという情熱、無垢な喜び、人柄の暖かさのようなものが滲み出ており、長く余韻が残るような作品。心が動いた。

絵を描くという作業は、目で見たもの・現場で感じたことを自分の心の奥で置換え、噛みしめることだと思う。そうして抽出した真実を画面に適した形で構成しなおし、作品へと昇華させる。老齢の画家の絵の方が若手作家のそれよりも時に若々しく、自由に満ちているのは、(人生経験もさることながら)長い修練の後でそうした困難な一連の作業がごく自然なものとして行われているからではないかと思う。秋野先生の作品はどれも素晴らしいが、特に80才頃から亡くなられる93才までの 晩年の作品の空気には魅力が凝縮されているように感じた。

この展覧会は5/11(日)まで京都国立近代美術館にて行われ、静岡県浜松市の秋野不矩美術館に巡回する。

 

生誕100年記念 秋野不矩展 http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2008/363.html