長谷寺 登廊

奈良県桜井市の西にある初瀬山に広がる長谷寺は、686年 道明上人によってその基礎が開かれた。727年 聖武天皇によって十一面観音菩薩像が置かれてから西国三十三所観音霊場の根本道場として知られ、現在も全国から初瀬詣に訪れる人が後を絶たない。

 

古くから霊験あらたかと厚い信仰を集めてきた長谷寺は、特に平安時代の京の姫や女官たちから絶大な支持を得ており、その熱心な参詣の様子は枕草子、蜻蛉日記などにも記載されている。当時の都の女性たちは3〜4日かけて京から牛車に揺られてやってきて、本堂の立つ山腹まで未舗装の道を登り、やっとの思いで観音様にお参りしていたそうだ。

いや、貴人といえども車が使えれば良い方で、源氏物語に出てくる美しくも不運な生まれの姫・玉鬘は、“京から歩いて参詣せよ”と言われて足を腫らしながら歩いてこの地に辿りつく。その苦労の甲斐あって、玉鬘とその周囲の人々の願いが叶うのは喜ばしいことだ。作者の紫式部は幾度も参詣していたというから、彼女自身もこの観音様に何か願掛けをしていたのだろう。初瀬詣のご利益とばかりに玉鬘の運命を劇的に切り拓いてみせたのも、作者本人の願いを素直に反映したような気がするのだ。

 

数百段もある登廊(屋根のついた階段)を登りきると、谷へとせり出す様な格好で本堂(国宝)が建っており、山肌を渡ってきた冷たい風が堂を吹きぬけ、荒々しくも清々しい空間が広がっている。ご本尊の十一面観音菩薩像は室町時代の作で巨大な堂々たる容貌。その眼差しの力強さ、重厚で壮麗な様子にはただただ圧倒される。十一面観音像は女性的な容姿のものが多いと思うが、この長谷寺の観音像はそのスケールやお顔立ちから確かな存在感と、どちらかといえば男性的な力強さすらも感じられる。

 

平成2022年の一部期間中は西国三十三所霊場全てのご本尊が特別拝観できるそうで、この長谷寺では観音様の御足に直接触れてお参りすることができるそうだ。興味のある方は特別拝観のスケジュールをチェックの上、是非その機会に訪れることをお薦めしたい。

 

長谷寺

http://www.hasedera.or.jp/