柊野の散椿

霊鑑寺にある日光椿、柊野の個人宅にある五色八重散椿。

2本はそれぞれ樹齢300年、450年といわれる椿の古木だ。

 
霊鑑寺は代々皇宮家の女性たちが住持してきた門跡尼院、
南禅寺に程近い東山の一角にある。
椿と紅葉の名所で、特に日光(じっこう)椿・おそらく椿などは銘椿として知られている。
柊野の方は農村の面影残す長閑な山間の一軒。
賀茂川上流志久呂橋近くの、空気のきれいな土地にある。
坂道の途中に家塀を乗越えるようにして椿の大木が聳えているのですぐにそれと分る。

この2本の椿は種類は異なるけれど、
同じ京都の地で長い時を生きてきた木たちであることに変りはない。
今でも双方ともに驚くべき樹勢を保ち、
力強い枝ぶりの中に何千個もの花々を毎年咲かせている。


この木々の足元には今まで何億、何兆個もの花々が落ち重ねられてきたことだろう。
その一つ一つの花のいのちの延長線上に、今の花が咲いている。
そう思うとずしりと温かく濃密な 数百年分の花の淡心が聞こえてくるような気がする。
誰もが思わず声をあげるような そんな美しい花だから、
かつて花に心を写した人々の呟きすら聞こえてくるような気さえする。
私の声もずっと先の世で、いつか誰かが聞いてくれるのかもしれない。

花の命は短い などというけれども、
この300〜400年の間に天下人も都も人々の暮らしも随分様変わりしてしまったのだから、
椿たちから見れば人の世の方がずっと短く移ろいやすく 儚いものにちがいない。

だからこそ異なる時間を生きる定めの人と花とが、交感しあえるその一瞬が
かけがえのないものに思える。



霊鑑寺は普段非公開だが、春秋の年2回 1週間づつ特別拝観が許されている(今年は4/6まで)。
柊野の散椿は門先からでもよく見ることができ、3月中〜下旬の花の季節は特に圧巻。
少し行きにくいところだけれど、本当に素晴らしいので行ける方は是非見に行って欲しい。