フラ・アンジェリコ「受胎告知」(サンマルコ美術館カードより)


テンペラやフレスコの作品を見ていると、日本画と共通点が多いなと改めて思う。

素材の類似性、特に乾いた質感や箔の使い方などに似ている点が多いのだ。

そんな理由もあるのか、日本画を描く人でイタリアに興味のある人は結構多い。



ご多分にもれず私もイタリアに行ってきた。

美術好きの方ならフィレンツェのウフィッツィ美術館をご存知だろう。

この美術館はブルネレスキの建築によるもので、

展示内容は古代彫刻から18世紀頃までの絵画。

企画室も合わせると60〜70ほどの部屋があり、

教科書でしか見た事がないような名画を幾つも所有するイタリアを代表する美術館の1つだ。

しかしメジャーな美術館ゆえに敢えてここでは省略するとして・・・

私はこの近くにあるサンマルコ美術館を薦めたい。



サンマルコ美術館ではフラ・アンジェリコの「受胎告知」を始め、
多数の作品を見ることが出来る。

教会の佇まいはどっしりとしたルネサンス様式で、

内部は中世のドメニコ会の修道院そのものの形で保存されている。

入ってすぐ中庭を囲むようにアーチのある回廊があり、

これを回って建物の2階へと向かう階段を登りきると、

そこにいきなり受胎告知が描かれている。



七色の羽根を持つ大天使ガブリエルが 片ひざをついて両手を抱えるようにして前に組み、

うら若い清楚な聖母マリアは 重要な言葉を聞き逃すまいとするかのように、

やや前かがみの姿勢で天使と対面している。

柔らかで優しい色合いながら、厳粛で緊張感のある作品だ。

天使の羽根の色は黄、緑、代赭、などカラフルだ。

イタリアの土や石で作られた岩絵の具だろう、

そういえば近くの街ヴェローナからは緑土、シエナからは赤土がとれるそうだ。

大地の色をその身に纏い、天使は不思議な温かさを持って存在している。



この作品の後ろには修道士たちが使ったという小さな部屋が幾つも並んでおり、

各部屋の壁には1作品づつ異なる聖書の場面が描かれている。

こちらもアンジェリコたちが描いたもので、もちろん素晴らしい作品だ。

正直にいうと、作品の完成度には結構バラつきがあるように見えるが、

どれもが祈るような気持ちで真心から描かれている素晴らしい絵だった。



アンジェリコたちは神に捧げて、或いは神を説く人・求める人のために、

清貧な生活を自らに課しつつ作品を残した。

立身出世や自己実現のためではない。

絵の強さというのは、つまるところ「祈り」や「想い」の純粋さに比例するのだと改めて思う。

そういうものだけが数百年の時を越え、宗教や国や言葉を越えて、継がれていくのだ。



「受胎告知」の先には、その後のキリストと聖母マリアの物語が溢れている。

ここを訪れた者たちは身を屈めてその粗末な木の扉から部屋を覗いているうちに、

いつの間にか聖書の世界に紛れ込んでいくような不思議な錯覚を覚える。

豪壮・華美な世界とは縁のない、質素で静謐な世界に興味がある方は、

是非訪れてみて欲しい美術館だ。




Museum of San Marco(サンマルコ美術館)

場所:Piazza San Marco 3, 50121 Firenze.

開館時間:月〜金8151350、土・日8151650(チケット売り場は閉館30分前まで)

休館:第135日曜日、24月曜日、5/1、新年、クリスマス、

入館料:4ユーロ

※午後の方が人が少なくて良いと思いますが、
かといって閉館ぎりぎりだと人が居ても早めに閉館準備をしてしまうので注意です。

http://www.polomuseale.firenze.it/english/musei/sanmarco/